「ハーイ、坂田悟朗だす。ウェルカム・ツー・アワ・ショー！」
「どないしたんや、急に英語なんか使うて」
「いやな、わてらもアメリカに来てそろそろ１年やろ。少しは英語使えるとこ見せとかないかん思うて」
「相変わらず呑気な人やなあ」
「なんでや」
「この前やっと復活したのに、ニセモノはすぐ新作出しよったで。それにひきかえわてらは何やってんねん？」
「そら、おまえ、人に言えん苦労が…、うっうっ」
「何や、急に泣き出して。」
「これが涙なしに語れるか！」
「何でや？」
「ハリウッド目指して日本を発ったまではよかった。でも狛電ワシントン線を乗り過ごして終点のワシントンまで来てもうた」
「引き返したらええやんか」
「電車賃がない」
「１人１００円やないか」
「お金は全部ドルに替えてもうた。円でないと切符買われへん」
「あらま、そうやったん」
「しゃーないから、こっちでオーディション探してみたけど、米軍か反戦運動の勧誘しかあらへん」
「どっちに入っても漫才やったら殺されるなあ」
「というわけでこの１年仕事なしできたわけや」
「ホームレスにならんのが不思議なくらいやったな」
「ところが、ついにチャンスが来た！」
「お、元気になってきた」
「支局長はんの努力が実ってカリフォルニアへ行かせてもらうことになったんや」
「カリフォルニアと言えば？」
「カリフォルニアと言えば？」
「ワインが飲み放題！」
「アホ！」
「お米がうまい！」
「ボケ！」
「中華もうまい！」
「カス！ハリウッドやないか、ハリウッド！」
「おおお、ついにハリウッドへ行けるんやな」
「トム・クルーズ様に会えるやろか？」
「知るか、そんなもん。で、ここサンフランシスコに来た」
「へ？」
「へ？って、何をまたタマちゃんがおならしたような声出してんねん？」
「そんなかわいいか？」
「アホか」
「アホはあんたやろ。何でサンフランシスコやねん！」
「へ？」
「へ？やないやんか。ハリウッドはロサンゼルスにあんねんで、ロサンゼルス！」
「ほう？」
「ほう？やない！わてらまた乗り過ごしたんやんか！」
「細かいことは気にするな」
「気にする！同じカリフォルニア州でもサンフランシスコとロサンゼルスはえらい離れてるがな！」
「そうかあ、また乗り過ごしたんか？」
「手前で降りたんかもしれんで」
「そうやなあ、何せ路線が確定してへんからな」
「もう、あんたに任せてるとろくなことにならんな」
「日も暮れてもうたし、どないしょうか…」
「あれ、ちょっと悟朗はん！」
「何や？」
「あれ、何や？」
「うわ、サンフランシスコの路面電車やないか！」
「でも腕が着いてへんで」
「腕が着いてるのは狛電だけなの」
「そうかあ、そら知らなんだ。でもパンタグラフもないで」
「どれどれ？」
「ほんまやなあ、コマはん」
「どっから電気取ってるんや？」
「電池やろ」
「そんなアホな。それより乗ろうよ」
「あかん、オーディションが先や」
「そんな、アホな。あああ、行ってしもた」
「急な坂をものともせんと行きよるで、悟朗はん」
「まるでわてらの人生みたいやなあ」
「そんなかっこええもんか？」
「いかん、いかん、見とれてる場合やないオーディション、オーディション…」
「ほんまにこんなところで見つかるんやろか？」
（つづく）