盗難急行電鐵(2)

２．通学定期乗車券授与式

駅事務所の奥から歌声が聞こえてきた。国歌である。
なんですかあの騒ぎは？駅員に尋ねる。騒ぎとは何だ騒ぎとは。あれは通学定期乗車券授与式だ。知らないのか。お前だって申請したんだろうが。

駅員の話はこうだ。
申請に基づいて理事会が審査をして、合格者が決まる。京南急行の通学定期券を使えるということは沿線のみならず日本国民として最高の栄誉であり、授与式には京南グループ企業の重役が並び、ありがたいお言葉が頂けるのだ。

こいつらどうかしている。正直な感想だった。たかが定期券に審査だ授与式だ？何を考えているのだ。

不満そうな顔だな。駅員が僕の表情をのぞき込む。そんなことじゃお前も回数券組だな。回数券組は使える車両も改札口も、ベンチも違うんだからな。
奥の部屋から大きな拍手と、おめでとう！という声が聞こえてきた。駅員は言った。お前には本当の権威というものが判っていないのだ。鉄道に必要なのは正確さと安全だ。それは権威によって保証される。会社や駅員だけでなく鉄道そのものに権威が必要なのだ。

奥から式典を終えた生徒たちが、晴れやかな表情で整然と出てきた。これから品川駅前のホテルでパーティがある。と駅員が教えてくれた。呆れてモノも言えない僕の前を、定期券組の生徒たちが通り過ぎる。父兄同伴の奴すら何組もいる。
二十人近い生徒たちのなかに、同級生の麻衣を見つけた。試験では常に上位５番に入る秀才で新聞部とバスケット部に属する理論派の美少女。彼女がこんな馬鹿げた式典に出るなんて。信じがたい光景だ。
あら、という表情で麻衣は僕を見つけて笑った。誇りに満ちた輝く瞳で僕を見た。ガンバッテね、小さく手を振って彼女は駅を出ていった。
（たぶんつづかない）