DQN架空鉄道探訪シリーズ

海底寝台特急

海底トンネルで大陸に渡る寝台列車に乗る事になった。海外出張で利用する交通機関は会社側から指定され、変更はできない。憂鬱だ。荷物を小さな鞄にまとめ、駅へ。

　長い編成の列車の三分の二くらいは貨車である。貨物列車の後ろの方に寝台車が付いている。車内は中央の通路をはさんで両側に和箪笥のような木製の引き出しが並び、床から天井まですべてが引き出しだ。五段ある。
　引き出しには数字が書かれた木の札が付いていて、乗客は指定券の番号と一致する引き出しに入ることになる。通路の天井についた白熱灯が、両側の引き出しをあやしく照らしている。

　車掌に切符を見せて引き出しを開けてもらい、靴を脱いで中に入る。最下段なので梯子を使わずに済んだ。仰向けに横たわると、車掌が「閉じますねー」と声をかけてくる。私を乗せた引き出しは外観の印象に反して滑らかな金属的な動きでゆっくりと横に滑り、最後にロックがかかる乾いた音がした。周囲が暗くなった。

　中は狭い。高さがないので寝返りもできない。小さな橙色の豆電球の灯りが頭上にあり、顔の横に葉書大の小さな窓がある。窓は曇りガラスで外は見えないし開かない。空調はあるが視覚的に息苦しくとても不快である。こんな寝台で長時間過ごすことは出来ないと思う。

　しかし列車は動き出す。小さな窓が明るさを失っていく。帰りもこの寝台列車に乗らなければならない。乗らなければ帰ってくることができない。しかしそれは絶対に嫌だと思う。息が苦しい。もう乗りたくない。

　頭上の小さなスピーカーから、停車駅案内の放送が聞こえる。快適な寝台列車の旅をお楽しみください、などと言っている。早く寝てしまおうと思うのだが眠れない。最悪だ。