DQN架空鉄道探訪シリーズ

甘い途中駅

「学校まで直通の電車、欲しくない？」
「え？」
　朝の通勤通学の客で混み合う電車内で、高校生の男女が話している。ドアの横に二人並んで立ち、男の子は窓から外を見ている。直通電車が欲しいと話しているのは女の子だ。
「なんか、面倒くさいっていうか。バスに乗り換えたり」
「うん。雨の日とかね」
「急行がとまる駅から線路がわかれて、そのまま校舎に横づけ。終点」
「楽だね」
「でしょう？」
「夢だね」
「私立とかだと可愛いスクールバスがあったりして、それも素敵だけど、電車のまま行きたいの」
「悪くないね」
「ね、思うよね」
　女の子は鞄から大きなノートを取り出した。ページを開いて男子に渡す。
「何これ？」
「わたしが考えた新しい支線」
「支線」
「そう、学校まで行くの」
　ノートには地図をプリントアウトしたものが貼ってあり、手書きで新しい「支線」が書き込まれていた。終点は学校で、途中にひとつだけ駅がある。駅名はない。
「この駅は？」
「おいしいケーキ屋さんがあるの」
「なんと」
「学校から帰りの電車だけとまる駅」
「なるほど」
「毎日駅名が変わるの」
「変わる？『ケーキ屋前』とか『スイーツゲートウエイ』とかじゃないの？」
「ちがうちがう」
「駅名が毎日変わったら混乱する」
「途中の駅はひとつだけだからどんな駅名でも間違えないでしょう？」
「そうか」
「宇治抹茶濃厚チーズケーキ、とか、アーモンドクリームタルト、とか、そんな駅名。毎日のオススメというか」
「はいはい」
「いいと思わない？」
「夢だね」
「電車はケーキのラッピングで」
　ノートに絵があった。
「さすがにそれは無いでしょう。幼稚園のバスじゃないんだし。それに真面目な通学電車じゃなかったの？」
「そうか… あ、こうしたら？」
「？」
「学校駅は降車ホームと乗車ホームを作るの。降車ホーム側、登校のとき降りる側ね、電車のこっち側はラッピングなし。で、乗車ホーム側、帰りに乗る側は楽しいケーキのラッピング。どう？」
「どう？って」
「夢よね」
「夢だね。悪くない」
「あ、着いた」
　女の子はノートを鞄に戻し、男の子を押し出すようにして一緒に電車を降りていった。